特別の定めのある株式(107条)や種類株式(108条)のメリット・デメリット① ~内部紛争・トラブル型事業承継の勘どころ~
2020/01/14
1.はじめに
会社法では、次の通り、定款により、(すべての)株式に特別の定めを設けたり(107条)、異なる種類の株式の発行をすること(108条)が認められています。
以下、各株式のメリット・デメリットを検討する前提として、まずは各制度の概要を見ていきましょう。
2.(すべての)株式の内容について特別に定めるもの(会社法107条)
① 譲渡制限株式(同条1項1号)
株式の譲渡は自由が原則ですが、多くの中小企業においては、会社にとって好ましくない者が株主になることを防ぐ必要があります。
そこで、会社法は、定款により、株式の譲渡による取得について、会社の承認を要することとすることを認めております。
譲渡制限の態様は、既存の株主以外の者に譲渡する場合や、外国人への譲渡にのみ会社の承認を要する、と定めることも可能であると解されております。
② 取得請求権付株式(同条1項2号)
株主が会社に対して、その株式の取得を請求することができる、とする規定です。
これにより、特に株主側にとっては、閉鎖会社で少数株主の場合でも株式の処分が容易になるという利点があります。
③ 取得条項付株式(同条1項3号)
会社が、一定の事由(例:株主の死亡など)が生じたことを条件として、その株式を取得することができる、とする規定です。特に会社側にとっては、少数株主への対応がしやすくなるという利点があります。
④ 発行手続
いずれの株式も、定款で定めなければなりません(同条2項)。
また、上記の株式の内容について特別の定めをする場合、株主総会の決議要件が異なりますので、注意が必要です。
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ⅰ)譲渡制限株式-株主総会の特殊決議(会社法309条3項1号)
⇒当該株主総会において議決権を行使することができる株主の半数以上(これを上回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合以上)であって、当該株主の議決権の3分の2(これを上回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合)以上に当たる多数の賛成、が必要になります。
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ⅱ)取得請求権付株式-株主総会の特別決議(会社法309条2項11号)
⇒株主総会の特別決議、すなわち、議決権を行使することができる株主の議決権の過半数(議決権の3分の1以上の割合を定款で定めた場合は、その割合以上)を有する株主が出席し、その出席株主の議決権の3分の2(これを上回る割合を定款で定めた場合は、その割合)以上の多数の賛成、が必要になります。ある種類株式の株主に損害が及ぶ恐れがある場合には、当該種類株主総会の特別決議も必要となります。
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ⅲ)取得条項付株式-株主全員の同意(会社法110条)
⇒すべての株式に取得条項を付ける場合、株主全員の同意が必要となります。
3.異なる種類の株式の発行(種類株式)(会社法108条)
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① 剰余金の配当に関する種類株式(同条1項1号)
剰余金に関して、普通株式よりも優先させたり(優先株式)、逆に、普通株式に劣後させたり(劣後株式)などして株式を発行する場合があります。優先株式、劣後株式のほかに、トラッキングストック(特定事業連動株式、会社が有する特定の完全子会社・事業部門等の業績に連動するように設計された株式)などがあり、これにより多様な資金調達が可能になります。
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② 残余財産の分配に関する種類株式(1項2号)
会社を清算する際の残余財産の分配に関して、普通株式よりも優先させたり、逆に、普通株式に劣後させたりなどして株式を発行する場合があります。
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③ 議決権制限種類株式(1項3号)
株主総会の全部または一部の事項について議決権を行使できない株式を発行する場合があります。一定額以上の剰余金の配当がなされない場合は、議決権制限株式に議決権が生じる、という条件付の定め方もできますが、1株に複数議決権を付与したり、議決権を0.5にすることは認められていません。完全無議決権株を含め、議決権制限種類株式をうまく利用することで、従来の支配関係に変動を与えないで資金調達ができます。
なお、議決権制限株式の株主も種類株主総会においては議決権を有します。
公開会社(会社法2条5号)では、議決権制限株式の総数は、発行済株式総数の2分の1を越えてはならない(会社法115条)、とされています。これは、公開会社においては、少額の出資で会社を支配されることが不適当だと考えられているためです。
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④ 譲渡制限種類株式(1項4号)
その譲渡に会社の承認を要する株式を指します。
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⑤ 取得請求権付種類株式(1項5号)
株主がその株式について会社に取得を請求できる株式を指します。償還株式や、優先株式から普通株式に転換するもの(優先株式を対価として普通株式を取得すると構成します。ベンチャーキャピタルに発行される優先株式によく利用されます。)などがあります。
取得請求権を行使された株式は、会社の自己株式となります。
なお、財源規制に反する場合(分配可能額を超える場合)は、株主は取得請求権を行使することはできません(166条1項但書)。
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⑥ 取得条項付種類株式(1項6号)
一定の事由が生じた場合に、会社が株主に対して取得権を有する株式を指します。会社が優先株式から普通株式に転換権を有する株式(強制転換条項付株式)や、強制償還型の随意償還株式などがあります。
取得条件が成就した株式は、会社の自己株式となります。
なお、財源規制に反する場合(分配可能額を超える場合)は、会社は取得条件が成就しただけでは株式を取得することは出来ません(170条5項)。
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⑦ 全部取得条項付種類株式(1項7号)
株主総会の特別決議により、会社がその全部を取得することができる株式を指します。
これを利用することで、私的整理等において、100%減資が可能となります。
また、MBOにおいて、第一段階の公開買付けで取得できなかった株式を第二段階で強制的に取得する手段として利用された実例があります。内部紛争やトラブル型の事業承継において、円滑にM&Aや株式上場を達成するために、少数株主や反対株主を排除する手段として利用することも、法理論的には不可能ではありません。
これに関連して、平成26年の会社法改正により、対象会社の総株主の議決権の10分の9以上を有する株主(特別支配株主)は、会社の株主総会決議を経ることなく、少数株主の有する株式の全部を売り渡すよう請求することが出来る制度が設けられました(会社法179条~同条の10)。
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⑧ 拒否権付種類株式(1項8号)
株主総会等で決議すべき事項のうち、株主総会等の決議に加えて、その種類株式の種類株主を構成員とする種類株主総会の決議が必要となる種類株式を指す、いわゆる「黄金株」と呼ばれるものです。
合弁会社やベンチャー企業において利用されることも多いほか、事業承継の際に、完全な撤退を希望しない創業者等に発行される場合があります。
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⑨ 取締役・監査役の選解任に関する種類株式(1項9号)
非公開会社で、委員会設置会社でない会社について(1項柱書の但書)、その種類株主総会において取締役・監査役を選任する種類株式を指します。
ジョイント・ベンチャー企業において、取締役・監査役の選解任に関して、株主間の合意があるときに利用されます。
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